【2】GTAの備忘録 -細かい分析手法の解説-
前回は、GTAの成り立ちや第一人者などについて紹介しました。
今回はもう少し踏み込んで、GTAがどのような研究に向いているのか、GTAが具体的にどのような分析手法なのかを書いていきたいと思います。
はじめに
初めに断っておきますが、あくまで今回紹介するのは戈木クレイグヒル版のGTAであり、他に存在するGTAとは一切関係がありません。同じ名前を冠していても枝元が違えば全くといっていいほど違う分析手法になっているので、誤解なきようお願いします。
また、本記事で引用する文は全てグラウンデッド・セオリー・アプローチ 改訂版 理論を生みだすまで (ワードマップ)から持ってきています。
GTAが向いている研究
グラウンデッド・セオリーの理論は、人がある状況をどうとらえ、どう対応するのか、どのような行為/相互行為が生じるのか、それによって状況はどう変化するのかというプロセスの多様性をとらえようとするものです。p.7
引用に示してあるとおり、GTAは何か変化のある事象を俯瞰的に分析することに特化しています。よって、何かの事象が何かの干渉によって変化するプロセスを観察する際に最適な分析手法であるといえます。
GTAは多くの場合、医学臨床系の研究で用いられています。これは患者の容態、看護師・医者・患者自身・患者の親の心情など、観察対象に変化する要素が多く含まれている所以だと思われます。
今回私がGTAを採用した理由も、就職活動を始めたばかりの学生が就職活動を終えるまでにどのようにして"成功"の定義を変化させていくのか、というテーマにGTAの特性が合致したためです。(ちょっと使ってみたかったのも本音)
使うべき・収集すべきデータ
答えから言うと、どんなデータでも収集対象にはなるようです。基本はインタビューと観察によって収集するようですが、事象を多角的に分析するためであれば新聞、雑誌、手紙に至るまであらゆるものを分析対象にすることが可能です。
ただ、それらの資料を分析するのは初学者には少々厳しい気がします。
私も今回「絶対内定2017」などの文献を分析する予定ですが、
- どこからどこまでを分析すれば良いのか
- 書き手の心情なども考慮すべきなのか
など疑問点が山のように出てきます。2番目ですが、そもそもデータの分析において書き手の心情なんてノイズになってしまうから要らないだろう、という意見が当然あると思います。通常の分析なら、確かに書き手の心情などただのノイズですが、GTAにおいては違います。
グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、可能な限り、そのすべてのプロセスをとらえたいのですから、現象の詳細を把握するために、すべての登場人物たちがそのときに「どう感じ、どう考え、どう判断したのか。その結果、どういう結果に至ったのか」というプロセスを含んだデータを収集することが必要です。p.24
このように、GTAでは観察対象者の心情の変化までを含めた分析をしなければなりません。インタビューや質問紙調査ならある程度予想もできますが、出版されている本においては当然著者だけでなく様々な人の手が入っているので安易な予想を含めて良いのか分からないのです。
ただ、実際には観察対象の心情まで正確なデータとして収集することなど不可能です。観察者はどうしても主観的な目線である程度予想をしてデータに含めなければいけません。
この時点で拒否反応が出る人は多くいると思います。かくいう私も、戈木クレイグヒル氏の著書を読み始めた段階では、私が元々持っていた既成概念(データ分析に抽象性が介在してはいけない)とあまりに違いすぎて面食らいました。特に理系の人なんかは、この理論本当に受け付けないと思います。ほんと、1,2を争うくらい抽象的な分析法なんじゃないでしょうか(適当)。
もちろん主観で集めたデータをただ単に分析しただけでは、まともな研究にならないため、それらのデータからできるだけ主観性を排除し、筋道だった理論を形成するための手法こそがGTAなのです。
4つの概念(プロパティ、ディメンション、ラベル、カテゴリー)
主観性を排除し、データを誰から見ても明らかな分析結果に整形するためには4つの概念が大事になってきます。
- プロパティ
- ディメンション
- ラベル
- カテゴリー
の4つです。恐らく初学者にとって一番難しいのがこれらの要素の使い方なのではないでしょうか。
戈木クレイグヒル版GTA(及びほとんどの他GTA手法)では、まずデータの切片化という大事な作業をする必要があります。これは、分析対象となるデータをしっかり読み込んだ上で、前後の文脈関係無しに一つずつデータを取り出す作業(インタビューなら話者交代ごと、質問紙調査であれば一項目ごとなど)です。GTAではこれらを切片データと呼びます。
各切片データに対してつける、観察者の主観がプロパティです。
まあ、意味不明ですよね。本から引用しましょう。
プロパティは分析者の視点を示すものです。p.4
...どうでしょうか。
正直実際の具体例を見ないとこれは分からないと思います。私も例を見るまでは全く理解できませんでした。
例えば、「りんご」という切片データがあるとします。
その「りんご」というデータを分析者の視点で切り分けるのが、プロパティの設定という作業になります。この場合、プロパティは「色、形、匂い」などになります。
そして、そのプロパティを通してデータを見たときの位置づけがディメンションです。
色:赤
形:丸?
匂い:酸っぱい
といった感じですね。もちろんプロパティは主観なので、これらに加えて収穫時期などを追加することも可能です。むしろ、どのような小さいことでも良いので思いつく限りのプロパティを設定することを戈木クレイグヒル氏は推奨しています。切片データにプロパティとディメンションを設定し、それらを的確に表現できるラベルを設定します。
上のりんごの例なら、「りんごの特徴」とかですかね。ちょっと苦しくなってきたのでこの例を使うのはもうやめます。
それぞれの切片データにラベルを設定したら、似たようなラベルを集めてカテゴリーを作ります。そして、複数できたカテゴリーの相関を分析することで、ある事象にどのような要素がどのような影響を及ぼしてどのような変化を起こすのか、分かりやすく整理することができる、といった次第です。
おわりに
プロパティとディメンションが理解できれば後は特に難しいことはないと思います。
難しいことはないのですが、やはり実践してみないと分からない部分が多くあるので、これをきっかけにGTAに興味を持ったという方は是非戈木クレイグヒル氏の書籍を利用してトレーニングしてみてはいかがでしょうか。非常にわかりやすく解説されておりおススメです。
グラウンデッド・セオリー・アプローチ 改訂版 理論を生みだすまで (ワードマップ)
- 作者: 戈木クレイグヒル滋子
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2016/07/10
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